辟雍NEWS
東京学芸大学同窓会総会及び講演会
去る6月8日(日)午後1時より、一般社団法人東京学芸大学同窓会の令和7年度の総会が本学講義棟S410教室において開催されました。森富子理事長の挨拶に引き続き来賓として本学の國分充学長が挨拶をしました。今回の総会において、森富子理事長は4年間務めた理事長職を退任し、茅原直樹副理事長が新たな理事長として就任しました。茅原新理事長は、挨拶の中で、これからの教育は情報教育が学力の基盤となるだろうと述べ、また辟雍会、大学との連携を強めていきたいと抱負を語りました。
総会終了後は、大石学先生(本学名誉教授、歴史家、静岡市歴史博物館館長)による講演「徳川の平和(パクス・トクガワーナ)と江戸のリテラシー」が行われました。先生は冒頭に、江戸時代のイメージが大きく変わりつつある。250年間という長い間、世界史上まれな「平和」の時代が続いたと述べ、江戸庶民の落書(らくしょ)・川柳にも「名将も 勇士もしれぬ ありがたさ」などといったものがあることを指摘し、この「徳川の平和」が「江戸の教育」に深く結びついていたと言います。人々は身分を超えて諸学の基礎となる字を書くようになったことで文明化が進み、社会のリテラシーが高まった。庶民は手帳を持ち歩いて日々の行動を記してもいた。江戸小咄の事例から古典に通じ、高度な算術を身につける庶民も見られた。さらに特徴的なことは「笑い」や「ユーモア」に富むものが落書に多く見られる。このように、江戸時代には芸能や出版、井戸端会議などの会話によって、寺子屋・藩校などとは異なる学びの方法を獲得していたと指摘します。
NHK放映中の大河ドラマ「べらぼう」にも江戸庶民の生活、文化を垣間見ることができますが、文字文化が定着していたことが基盤となっていたことが理解できます。ちなみに先生はこれまでもNHK大河ドラマの時代考証をされてきました。
教育の究極の目的は「人と同じでありたい」と「人と同じではいやだ」と相反する気持ちを調整するバランス力だという先生は、主体的に学び、学ぶことを楽しんでいた江戸庶民の姿が、現在の教育の在り方にも相通じるものと示唆します。
たくさんの資料を丁寧に紹介する先生の江戸庶民の世界に、聞き手は吸い込まれるように時を忘れていました。(記 小澤一郎)
写真1 挨拶する茅原直樹新理事長
写真2 退任する森富子前理事長に、大学への貢献に対して感謝状を渡す國分充学長
写真3 講演する大石学先生