辟雍会会長 平成29年度卒業式祝辞

辟雍会会長 馬渕貞利

 卒業生・修了生の皆さん、ご卒業・ご修了、おめでとうございます。

 また、ご家族・保護者の皆様、おめでとうございます。

 東京学芸大学全国同窓会の「辟雍会(へきようかい)」を代表いたしまして、ひと言、お祝いの言葉を申しあげます。

 本日ここにお集まりの皆さんがこれから進まれる路はさまざまであろうかと思いますが、最も多くの方々は学校教員として4月から教壇に立たれることと思います。ご承知のように、本学は日本における教員養成系大学の中心校としての役割を担うことを自負している大学です。本学の初代学長の木下一雄先生は、教員養成は2年間で十分だとする文部当局の姿勢を厳しく批判され、新しい教員養成は4年制大学で行うべきことを主張されて今日の教員養成系の大学・学部や大学院の基礎を築かれました。そうした本学の卒業生・修了生である皆さんは、優れた資質を備えた教員として、また、将来の日本の教育界を担っていくべき人材として嘱望されております。昨今、しばしば教職はブラックであるという話が飛び交い、国会でも教員の長時間労働や休日勤務の問題が議論されておりますが、かつて「聖職」と言われたように、子どもや若者の成長に深く関与する教職という職業ほど、誇り高く、やり甲斐のある職業はないと思います。これから教職に道に進まれる皆さんは、あらゆる困難を乗り越える意志と、自分の能力に対する確固たる自信をもってこの素晴らしい人生航路の第一歩を踏み出していただきたいと思います。

 ところで、現在、日本の大学は財政的に厳しい局面に立たされ、本学の出口学長は、日本教育大学協会の会長としてもたいへんなご苦労をされております。

 本日、この会場には本学で最後の「教養系」学生の皆さんが出席されていますが、「教養系」は教員の過剰が叫ばれた1988年に、当時の国立大学教育学部の中に設置され、以来30年、学校教員養成コースである教育系と並んで、広い意味での教育系人材を輩出する役割を果たしてきました。この間、「教養系」から巣立った皆さんの先輩たちはさまざまな場所ですばらしい実績をあげております。私たちは、教員養成系大学にこうしたコースが設けられたことによって日本の教育がより豊かなものになったと確信しておりますが、「教養系」は今まさに国家財政の緊縮を理由に消え去ろうとしています。まことに残念なことでありますが、新しく再編された教育支援系の発展に夢を託しつつ、本年度教養系を卒業される皆さんには、いわば有終の美を飾るべき今後のご活躍を期待したいと思います。

 私は、こうした「教育系」、「教養系」の卒業生のみなさんと大学院修了生の皆さんに対し、次のお話を「はなむけの言葉」といたします。

 昨年1月、23年にもわたって続いてきたNHKの長寿報道番組「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子(くにやひろこ)さんが『キャスターという仕事』という著書を上梓されました。私は、この本は現代の日本を考える上で示唆に富む言葉がいっぱい詰まった名著だと思います。

 2016年3月17日、「クローズアップ現代」の最終回が放映されましたが、そのタイトルは「痛みを越えて~ 若者たち 未来への風」というもので、作家の柳田邦男さんがゲストでした。国谷さんは、先ほどの本の中で、この柳田さんから送られたメッセージに若者たちへの「8か条」というものがあったことを書き留めています。これはすべて、とても含蓄のある言葉なので、私はこれを皆さんに紹介しておきたいと思います。

1)自分で考える習慣をつける。立ち止まって考える時間を持つ。感情に流されずに考える力をつける。

2)政治問題、社会問題に関する情報(報道)の根底にある問題を読み解く力をつける。

3)他者の心情や考えを理解するように努める。

4)多様な考えがあることを知る。

5)適切な表現を身につける。自分の考えを他者に正確に理解してもらう努力。

6)小さなことでも自分から行動を起こし、いろいろな人と会うことが自分の内面を耕し、人生を豊かにする最善の道であることを心得、実践する。特にボランティア活動など、他者のためになることを実践する。社会の隠された底辺の現実が見えてくる。

7)現場、現物、現人間(経験者、関係者)こそ自分の思考力を活性化する最高の教科書であることを胸に刻み、自分の足でそれらにアクセスすることを心掛ける。

8)失敗や壁にぶつかって失望しても絶望することもなく、自分の考えを大切にして地道に行動を続ける。

 現代は変化が激しい時代で、何事も目まぐるしく変化しています。こういう時代であるからこそ、皆さんは自分を信じ、「変化を読む眼」、「時代を読む眼」を身につけるように努力していただきたいと思います。

 現在、辟雍会は、東京学芸大学・大学院の学生や卒業生だけでなく、教職員とそのOB・OGを含めた東京学芸大学のすべての関係者が集う組織として運営されております。今年は本会発足の年より数えて15年目にあたりますが、道府県支部は30道府県で組織され、正規会員も1万3000人を超える規模に成長してまいりました。

 こうした力を背景にして、辟雍会では、昨年度から学生支援活動に一層力を注いでおりますが、今後は、卒業生に対するさまざまな情報交換活動も強化してまいりたいと思います。ここにお集まりの卒業生の皆さん、卒業後も辟雍会活動にご参集、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。